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日中問題? 中国とはどういう国か - 中華思想の表層的具現 [中国論]

最近の中国人の反日デモに端を発する一連の暴動とそれに対する中国政府の対応については、自分の中では、どういうことが起こっているのか非常にすっきりしている。もちろん中国語を学ぶものとしてはいささか残念ではあるが、中国語を学ぶと同時に、中国というのはどういう国なのかということも学んだつもりである。ただ、自分の周囲にいささかの動揺が見られるので僕の中国観について少し述べておくことにする。

現在、海外にある僕は、インターネットを見ることでしか情報を得られないが、そのかぎりにおいては、日本での報道関係の論調は、中国に対する先入観の影響かいささか過剰気味で、非常に不満を覚えるものがあって、自分の精神衛生上も良くないので、できるだけこの関係の報道は見ないようにしている。今回の一件では、どちらかというと以前は親中だった人間でさえ、「日本を消滅せよ」などと叫び暴徒化する中国の若者に「先の大戦における日本の罪に対する抗議」以外のなにかを感じたり、高慢な中国政府の対応に激怒したり、中国語学習者の仲間にも不安が見られたりしている。もしかすると、もともと反共で中国嫌いだった人をのぞくと、日本人が戦後に養ってきた中国観が大きく変化するきっかけとなるかもしれない。

さて、反日暴動とは直接関係はないが、読売新聞によると香港各紙の報道として、四月十日、中国の浙江省の村で、工場が排出する公害反対に対する抗議が暴動に発展したというニュースがある。同報道によると、これには三万人が参加し、老人二人が死亡。これは抗議を強制排除しようとした武装警察が抗議する村民に催涙弾などを撃ち込み、死亡した二名は警察車両に引かれ死んだのだとしている。また、このニュースは中国国内では報道が禁止されているという。件の香港紙がどれほど公正な報道をしているのかわからないが、北京や広州を初めとする各地の暴動も、中国当局は天安門事件の時同様に、上部の指令があればすぐに「鎮圧」できることで、必要があれば報道管制を敷いて死者の数さえ公式には隠蔽することができる。大弾圧を加えないまでも、排除を一切しないということは、同時に「黙認」するように指令がでていると見るべきである。そうするとこの種の暴動は中国政府の官製暴動と言っても過言ではない、ということになる。

さて、中国が今回のように、国内の反日感情を煽り、内憂を外患へと転嫁し、それを国際問題化することは予想範囲内であり、残念だが今後もこういうことが起こるだろう。これぞ四千年(人によっては五千年)という彼らの歴史の一断面にしか過ぎない。日本人は、どこかで中国を「偉大なる先達」と思ってしまう。だから春秋、左氏伝などに始まる中国の正統派古典を、いまだに儒教的価値観の染み込んだ中国へのロマンをもって読み続けてしまう。そのために主張される論拠には疑いを持ちにくい。しかし儒教的な価値観を排して眺めると、その内容は各王朝、王家が、対立する他の王家に対して、いかにその正統性を主張し、正当化するかを延々と述べた書物に過ぎない。太古に中国を治めた王朝と同様に、今の中共政府もその伝統を継承し政治を行っている。次の王朝に滅ぼされるまでは自分の王朝が絶対であり、絶対的な価値観に拠っているので、外から見るとおかしなことでも、中ではなんの矛盾も生じない。だからこそ中国国内でこれだけの反日暴動が起こっているにもかかわらず、日本における横浜の中国銀行支店への嫌がらせに対して、「これは中国に対する『テロ』だ」などと中国高官が平気な顔をして非難できるのだ。

これは中国の文化である。多くの民衆にとって「世界の中心」としての「強力かつ絶対的正統な中国」という大きな虚構、つまり「中華」に自己同一化することは特別のことではなく、政府はそういう民衆をうまく利用しているに過ぎない。支配層、被支配層両方を含めた、その微妙な精神構造こそが中華思想の本質であり、一つの価値体系である。

日本政府は日本国内では中国に配慮しているというよりも、善良な「日本の国民感情」に配慮しているようにみえる。変っているのは、中国に住む日本人や、日本に住む中国人が動揺するのなら話はわかるが、日本にいる日本人までがこういう状況に一喜一憂してしまうことである。国際問題に関心が高いのは良いことだが、僕は基本的に今回のような事件は、日中問題でも国際問題でもなく、中国の国内問題だと思っている。同時に日本政府幹部が、中国政府に動揺させられた日本国民の顔色を窺うのも日本の国内問題である。

<関連記事>
中国が謝れないわけ [中国論]
http://blog.so-net.ne.jp/sanpeita/2005-05-09-1

<関連ニュース>
中国浙江省で3万人が暴動、2人死亡か…公害に抗議
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050412-00000414-yom-int&kz=int
中国銀行事件はテロと非難 中国外務省副報道局長
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050412-00000201-kyodo-int


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コメント 11

中華思想についての、なかなか意義深い論文です。
感心!
by (2005-04-14 21:48) 

三平太

ランクルさん、いらっしゃい。
コメントありがとうございます!
当方、本職の方の論文(笑)が終わり次第、
ランクルさんのページにも遊びに行かせてもらいますね。
by 三平太 (2005-04-15 07:29) 

Bacupile

しょちょうさんのページから来ました。はじめまして。三平太さんのような中国や日本の見方をしたことは今までありませんでした。大学の政治の授業よりここのブログのほうがぜんぜん教養になる気がします。(教授ごめんなさい)
by Bacupile (2005-04-16 11:53) 

三平太

Bacupileさん、いらっしゃい。
褒めていただいて恐縮です。僕は職業的、社会的に制限がないので、自分で考えたことを、自由にこのブログで言っているだけですが、もしかして、Bacupileさんの教授もどこかで仮名を使っておもしろいブログを書いているかも知れませんよ。
by 三平太 (2005-04-16 23:36) 

もんど

おもしろい中国観で楽しく読ませていただきました。実は中国ではないのですが、1ヶ月ほど前の韓国の竹島問題勃発で、日本大使館前に大量の人がデモをしていたとき、まさにその場所から駅で二つくらいの場所に私は歩いていました。でも、韓国人が多いバーで呑んでいても、日本人の少ない食堂で、しかも竹島問題がテレビでやっているのであっても、特に問題は起きませんでした。まぁ、新聞をしきりに読んでいるおじさんの前に立っているときは複雑でしたが・・・。
by もんど (2005-04-25 19:16) 

じんじん丸2号

大変、意義深い文面でした。
国外・国際問題というより、国内問題というのは、
僕自身思っていたことです。
また、お邪魔します(m_m)
by じんじん丸2号 (2005-04-27 19:53) 

三平太

もんどさん、じんじん丸2号さん、はじめまして。
僕もこの文章を書いて以降、この一件が国際問題化する以前、または以後の、各国(日本・中国・韓国)の「国内問題」はなにかと言う視点であらためてみると、まったく違う構図が浮かび上がってくることに気がつきました。その上で、各国の指導者や政府高官が何をしたがってるのかということも(多くの利害対立が有る中で)見えてくるように思えます。海外でずっと気になっていた「小泉首相の意図」というのも少し見えるような気がします。
by 三平太 (2005-04-27 23:29) 

旅限無

TB有難うございました。海外に滞在中のようですね。見聞を広めて無事の帰国をお祈りいたします。中国問題は、米国の新しい動きに対する反応である面が強いように思えるのですが、日本の報道では米国と中国とを別扱いする癖が抜けないので、情報を受け取る側はチグハグな印象を受けてしまうようです。北京政府にとって、日本はとても扱いやすい相手ですから、彼らの視線の先にあるのは米国政府だけではないでしょうか?
by 旅限無 (2005-05-09 04:54) 

三平太

旅限無さんこんにちは。コメントありがとうございます。そうですね、そこら辺はとりもなおさず日本が戦後に『国際戦略』を放棄してしまったことに原因があるように思えます。小泉政権はどうやらそれを取り戻そうとしているようで、部分部分で成功を収め始めているように見えます。
旅限無さんの記事読ませていただきました。高句麗にとどまらず「『呂氏春秋』によると、、、」ということで、日本人の祖先は中国人だと思っている中国人が多いことにびっくりします。さながら現代版八紘一宇のようですね。「謝ると血の雨が降るそれがチャイナだ」、言い得て妙です。
旅限無さんの記事、「中国が謝る時」(http://blog.goo.ne.jp/nammkha0716/e/4659b5b852f66aabb13d0490a1f864e4
by 三平太 (2005-05-09 06:53) 

fooljoker

訪問ありがとでした。
最近、中国・韓国とか近隣諸国に興味を持ちつつあるので、楽しく読ませて頂きました。
自分も含めてどうしても日本の方は外国での日本の評判に敏感になりすぎる部分がある感じがします。
・・外国で日本人の評判が良いと聞くと素直に喜んでしまいます。
・・外国で日本人の評判が悪いと聞くと素直に悲しんでしまいます。
また、お伺いさせて頂きますね。
by fooljoker (2005-07-06 22:57) 

三平太

フールジョーカーさん、いらっしゃい。
そうですね、確かに外国での日本に対する評判に過敏なところはあると思います。一喜一憂してしまいますよね。そういう一喜一憂のある日本人は素直でいいと思います。素直でさらにいい意味での自信を持っている、そんな日本人が好きです。
by 三平太 (2005-07-08 01:27) 

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