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昔つきあってた相手 [我がよき友]

仕事でイギリスに6年住んでいた友人Tと会った時の話。ある平日の晩、俺と彼は客のまばらな居酒屋に一緒に入った。座敷に座っての落ち着いた会話。長期にわたる海外生活からの帰国後、自分の中でどういう変化があったという話をしていた。

彼がいうには日本に帰ってきてから、そのまま、あるがままを受け入れられるようになったのだという。「もちろんすべてではないよ」と念を押す。ただ昔のように、相手のいう一言一言に逐一反応して感情的に議論することがなくなった。相手がどういう状態にいるか、何を考えているか、どういう人なのかといったことが、より理解できるようになったのだという。

「いいことじゃないか」と俺は言った。「そうだろう」と彼も言う。俺もできることならそういう風になりたい。

同時に、彼は変に人に期待しなくなったという。ある意味ドライな気分だが、それはそれで心地いいのだとも言う。俺は「ふーん、そんなものかなぁ」と揚げ出し豆腐を食べながら相づちを打つ。

「日本人ってのはやっぱり分かりやすいなぁ。そう思えるようになったおかげで、お客さんからいい波長をひき出すことができるようになったような気さえする」とTは言う。

「それは最高じゃないか」と俺はいう。「そうなんだよ」。彼も笑いながら答える。海外生活の経験が、日本に帰ってきた彼の能力として還元されたのだろう。

日本酒をおちょこに注ぎながら「ちょっと変なんだけど、、、」、彼がはにかむような顔をして続けた。声のトーンからも少し調子が変わったのがわかる。「日本人とは反対に、西洋人には、どこかでまだ期待している気がするんだ」。

「?」

「よくわからないという顔をしてるな」と彼がいう。その通り、俺にはよくわからない。
俺「期待してるって、日本人には期待しなくなったのに、西洋人には期待するわけ? イギリスでもイギリス人相手にドライなつきあいをしていたんじゃないのか?」。
彼「いや。結局、、、あいつら何を考えてるのか、俺にはよくわからないんだよ。」
俺「そうなんだ」
彼「わからないから期待するんだよ」

彼は続ける。「昔つきあってた相手みたいなもんだよ。別れてしまったいまも好きだとか、嫌いになってるとか、もう忘れたとか、人によっていろいろあるだろうけど、、、。なにかがどこかに引っかかってるっていうような感覚を、ときどき思い出しては感じるってことあるだろ」。

帰り道に彼が言った「今さら期待とかいうようなもんじゃないのになぁ。あーあ、西洋とか東洋とかもう、本当にどうでもいいよ」。俺も同意した。「そういうのはやめにしたいね」と。





今日のひとこと

「陽気暮らし」

村上和雄著「サムシング・グレート 大自然の見えざる力」(サンマーク文庫)より


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コメント 4

allen

ほんとそーいうのやめにしたいよね。
西洋と東洋とか日本・中国・韓国とか。
でもありのままを受け入れて消化するって難しいんだよね。
どうしても自己の経験で判断してしまう。
まあ、ゆっくり生きましょう。
by allen (2005-10-22 09:08) 

三平太

テレビで首相の靖国神社参拝の報道姿勢に接するたびに、自分とは関係ない立場だなぁと思う。そういうのをやめて、じゃあどうするかっていう想像力を高めていきたいよ。
by 三平太 (2005-10-22 13:09) 

allen

そうだね。
きっと来るよ、そんなんできる日が。
できたら、世界がおもろくなるやろうなー。
by allen (2005-10-23 14:57) 

三平太

そうそう。やっぱり、毎日がおもしろくないとね!
by 三平太 (2005-10-24 00:42) 

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