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双子の兄 [その他諸々]


初夏といった季節だろうか、空は青くすみわたっている。しろく帯状にただよう雲は比較的高いところにあって、空気はわりかた乾燥している。木々の緑はすこぶる鮮やかで、これに十分な湿気と蝉の鳴声がくわわれば真夏といったところだが、まだまだ日差しはやさしく、井戸水で冷やしたスイカを食べるのには早いといった感じなのだ。

子供たちはといえば、境内の鐘楼が知らず知らずのうちに「たまりば」になっていて、集まるのもここなら、ひと休みするのもここで、夕暮れに解散するのもここといった具合になっていた。4段ほどある階段を登ったり降りたり、大きくなった子はそのまま下へ飛び降りたり、降りてはまたなんとかよじ登ったり、土台の真ん中にうめこまれてある壺の中に隠れたりと、ここには大人が思いつくよりも多くの遊び方がある。

午前中にひときわにぎやかだった子供たちの歓声がきえ、ひとときの静寂をもたらす昼下がり、小学校高学年を迎える尊は、この鐘つき堂と呼ばれるたてものの、土台から高さ5、60センチほどのところに浮いている横木に乗っかって、遠くを眺めていた。濃紺の短パンをはき、白色の開襟シャツを着た背中が心地よい風を受けてゆれているのが見える。

白い石でできたの鐘楼の土台部分には、地面におっちゃんこをした少年、弟の敬がうたたねをしており、その石垣然としたところに背をもたれながら小さな呼吸をしている。ここで寝ているのはわたしで、尊というのはわたしの双子の兄である。双子を持つ親というのはえてしてこういう名前を付けたがる。

鐘楼の横木の上にたたずんでいる兄の左横には、小学校に入るか入らないかといった年ごろの男の子がいて、兄のほうにひざまくらをするようにして、その小さなうなじをあずけている。屋根がつくりだす日陰に、小さな干し大根のような大小4本の足がぶらさがっている。兄はその子が気づかないように、背中にそっと手を添えて、しばらく止まっていた時を再び動かし出すかのようにゆっくりと撫でている。

さて、ここに、本来は近くに住む女の子があらわれるのである。双子の兄弟とはひとつちがいで年下。赤い服を着た、ほっぺの赤い、いなかの女の子が、何かをはずかしがるように指を口のあたりに当てるといったしぐさをしながら、ゆっくりと鐘楼のほうに近づくのである。


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ゆりまる

これは小説なのでしょうか?三平太さんの思い出なのでしょうか?初夏の風や匂いをふっと感じることが出来ました。優しい穏やかな文章ですね。
by ゆりまる (2005-12-29 08:30) 

三平太

ありがとうございます。これはイメージですね。一枚の写真というか、絵なんです。大事なイメージです。
by 三平太 (2005-12-29 21:48) 

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